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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(オ)481号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨第一点は、本件仮処分は民訴七五五条の仮処分の保全の限界を超えた違法があるというが、右仮処分は、所論のように係争物に関する仮処分としてなされたものではなく、仮の地位を定める仮処分としてなされたものであることは、原審判示のとおりであつて、従つて所論は、原審の判示に副わない法令違反の主張であり、採ることを得ない。同第二点は、本件仮処分は、民訴七六〇条に違反し、その必要の限度を超えるものであるといい、同第三点は、本件仮処分は、上告会社に対し、回復するに極めて困難となるべき損害を被らせるものであるから違法であるというが、原審の判示したところによれば、被上告人は、訴外亀田から賃借中の二十二坪の内、本件係争土地七坪余の東側後方に建物を所有してこれに居住しているが、上告会社において本件係争土地の電車通に面する間口二間の所に一間の竹垣をめぐらし、他の一間には各三尺の観音扉を設けて閉鎖し、右係争土地の地域全部にわたつて商品材料の置場や荷造りの場所として使用しているため、公道に通ずる通路なく、已むなく、係争土地の南側に隣接する訴外関本所有で上告会社で使用中の店舗家屋の、向つて右側を東西に通ずる幅約二、三尺の路地を通行していたこともあつたが、右通路も他人の所有又は賃借地で、好意的に通行を黙認されていたにすぎず、しかも被上告人方からこの通路に至る空地も現に他人が使用しており、被上告人が公然これを通路として使用することは殆んど不可能である旨疏明されておるのであつて、かかる事実関係の下においては、被上告人が、右係争土地の一部を、執行吏の保管のまま、仮りに通路として使用することは、係争の存する被上告人の権利関係につき著しい損害を避けるため已むを得ないものと認められるし、また上告会社の本件係争土地に対する使用状況は前記のとおりであつて、被上告人に、公道に至る通路として最小限度必要と認められる、右土地の内北寄りの間口三尺奥行約三間五尺の地域を、その通路として仮に使用を許しても、決して回復するに極めて困難な損害を生ずるものとは認められない。右の諸点に関する原審の判断は正当であつて、所論は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫)

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